映画『浅草の灯』(1937) 監督の信頼が厚かった上原謙。

11月23日は名優・上原謙の命日です。

(うえはら けん、1909年11月7日 – 1991年11月23日)

今年が生誕109年め、亡くなられてから27年ということになります。

『浅草の灯』は島津保次郎監督にしては珍しく、ちょっと暗い雰囲気を持っている映画です。

GHQの検閲により27分も切られたせいもあるでしょうか。

さっそくあらすじを追っていきましょう。

(以下、ネタバレあります!)

「ぺろぺろぺ~、ぺろぺろペ~」

と和気あいあい、熱気むんむんの浅草オペラ。

新人の麗子(高峰三枝子)に、超満員の客席から花束が投げられる。

そんな麗子の肉体を狙っているのが、浅草の顔役・半田(武田秀郎)。

その子分の大平(河村黎吉)が

ゲスな笑いを浮かべる。

この人はこういう役をやらせたら絶品だなあ。

麗子の後見人?の

マダム呉子(岡村文子)も、じつは半田のグル。

高価な着物をどんどん買い与え、そのお金は麗子の借金につけるというあくどさ。

麗子、貞操のピンチ。

ここで現われたのが一座の長・

佐々木先生(西村青児)。

毅然とした態度で麗子を救い出す。

さらに半田たちに

楽屋への出入り禁止を言い渡す。

麗子愛人化計画を阻止され、半田たちは復讐の炎を燃やす。

地回りの仙吉(磯野秋雄)が、イカサマくじで客を集めている……

と見せかけて、どさくさに紛れ、客の財布を抜き取る。

その一部始終を見ていて咎める男がいた。

これが麗子の追っかけをしているボカ長(夏川大二郎)。

客席から花束を投げたのがこの男だ。

ケンカにゃ弱いが、正義感は強い。

けれどどこかピントがずれている、という何とも不思議な絵描きさん。

もみあう仙吉とボカ長。

ここで仲裁に入ったのが

カウボーイ姿の伊達男、山上(上原謙)だ。

山上は役者ながら、腕に覚えもある。

チンピラ連中から一目置かれている。

ボカ長と山上は、これを機に仲よくなる。

麗子に紹介してやるといわれ、大喜びのボカ長である。

仙吉らは、佐々木の舞台をぶちこわしにかかる。

もちろん半田親分の命令だ。

…ここで杉村春子28歳の歌と踊りが堪能できる。

これは貴重。

杉村の役どころは摩利枝という、ちょっとトウのたったプリマドンナ。

座長・佐々木の妻でもある。

佐々木先生、やじられまくってブチぎれる。

途中で幕が引かれ、芝居は中止。

楽屋裏、佐々木は降板すると言って聞かない。

しかし妻の摩利枝は残るという。

じつは摩利江、半田に通じていた。

(なんと、あなたもそっち側でしたか)

自分の劇団を立ち上げたいと、金の無心をする。

「だったら麗子を何とかしてくれなくちゃ」

とニヤニヤする半田。

摩利江はさっそく麗子に言い含める。

麗子、うなずくしかない。そして号泣。

みかねた同僚の紅子(藤原か弥子)、身代わりを買って出る。

もちろん(?)半田は激怒する。

ここで団員が一致団結、麗子をかくまうことに。

白羽の矢が立ったのはボカ長の下宿。

二人、清らかな同棲生活を始める。

ここで高峰三枝子の美声披露。

さすが島津監督、ファンサービスも忘れません。

またもやお預けを食らった半田は摩利江に電話。

クレーム対応する摩利江。

さては山上がかくまっているな、と見当をつけ詰問する。

山上が困っているところへ、オペラ歌手の香取(笠智衆)が割って入り、罪をかぶってくれる。

麗子さんと自分が関西へ駆け落ちするのだと狂言芝居。

摩利江、しぶしぶ引き下がる。

このように劇団員が大変な苦労をしていたころ、麗子とボカ長たちはアパートで楽しくトランプに興じていた。

そこへ現われた山上、ブチぎれてボカ長を殴る。

山上が去った後、ボカ長が麗子にプロポーズ。

浅草へ戻った山上へ、的屋の女・お竜(坪内美子)がプロポーズじみた告白。

……ちょっと唐突な流れ?

でも振られたシーンの演出は素晴らしい! 雨の中、取り残されたお竜。 カメラがすっと足元に降りる。

哀しげに歩み始める、その心細さ……。

山上、芝居小屋に帰ると

佐々木先生と摩利江が夫婦ゲンカをしている。

仲裁に入る山上。しかし決裂。

山上、いきなり刃物を出す。

摩利江、ビックリ。

しかしこれは山上が

自分の小指を詰めるためだった。

「あなたが大人しく引き下がってくれないと

私が小指を落としますよ」

山上の気合いに、さすがの摩利江も参った。

その頃、ボカチョウは

半田一味に捕まり、拉致されていた。

山上、助けに行く。

ここで大立ち回り…だがカット。

山上、チンピラども

(この中に日守新一氏)をなぎ倒す。

(たぶん。フィルム損失のため不明)

ボカチョウを助け出す。

山上は結局、お竜といっしょに

大阪へ向かうのだった。

(終わり)

感想。。。

舞台に限らず、音楽会、スポーツ、美術展、これらは「場」が保証されて初めて成り立ちます。

それが侵され、侵した者がのうのうとしているようでは、その町はいずれ死に絶えて当然と言えましょう。

同じようなシチュエーションが

『ゴッドファーザー』でもありましたね。

マーロン・ブランド扮するマフィアの大親分が、ある映画監督を脅すというシーン。

どのように脅したかというと、撮影現場に乗り込んでロケをめちゃくちゃに…

なんてヤボなことはせず、映画監督のベッドに、とんでもないモノを忍ばせておいたのでした。

これで映画監督は一発で参っちゃった。

勿論褒められたことではありませんが、素人衆に表立って迷惑をかけなかったという点では

さすがに道理が分かっていらっしゃると思いました。

吉村公三郎監督(本作では編集を担当)の著書

「キネマの時代」に上原謙さんのことが書かれてあるので

ここに引用させていただきます。

ふだんあまり俳優とは付き合いの少ない私だが、この「浅草の灯」で主役を演じた上原謙氏と親しくなった。 上原氏とは昭和十年(1935)、蒲田撮影所での「せめて今宵を」以来、大船へ移ってからの「花嫁かるた」「朱と緑」「婚約三羽烏」と度々仕事ではいっしょしていたのに、「浅草の灯」からとくに親しくなったのは何かしらのきっかけがあったのかもしれない。 彼は世上よく言われてきたような大根ではない。下手クソの役者を最も嫌った島津監督が、いつも彼をひいきにして使っていたことでもそれはうかがわれる。 不幸にして彼の役柄は、代表的メロドラマ「愛染かつら」で見られるように、いつも女に惚れられる役ばかりで、大役ながら脇役と言うべきで、いわゆるもたれ役が多かった。(下線傍点) もたれ役の演技は常に受ける芝居が多い。積極的に相手に働きかける、いわゆる渡す演技の多い俳優(女も含めて)は目立って上手に見える。受け芝居は地味で難しい。だから冴えない。これは長谷川一夫氏の場合にも言えることかもしれない。 私が監督になってからも上原氏とは度々いっしょに仕事をしたが、ただの一度も彼を大根役者と思ったことはなかった。

キネマの時代―監督修業物語

The Lights of Asakusa

監督: 島津保次郎

原作: 浜本浩 脚本: 池田忠雄 撮影: 生方敏夫

編集: 吉村公三郎

配役

山上七郎 ... 上原謙 小杉麗子 ... 高峰三枝子 ポカ長・神田長次郎 ... 夏川大二郎 佐々木紅光 ... 西村青児 お竜 ... 坪内美子 吉野紅子 ... 藤原か弥子 飛鳥井純 ... 徳大寺伸 松島摩利枝 ... 杉村春子 大平軍治 ... 河村黎吉 呉子 ... 岡村文子 藤井寛平 ... 斎藤達雄 半田耕平 ... 武田秀郎 香取真一 ... 笠智衆 仙吉 ... 磯野秋雄 福松 ... 赤城正太郎 太公 ... 日守新一 仁村 ... 近衛敏明 荒川監督 ... 山内光 桜木 ... 伊東光一 香具師 ... 小林十九二 カルメンの踊り子 ... 大塚君代 〃 ... 東山光子 〃 ... 森川まさみ 〃 ... 八雲恵美子 〃 ... 小牧和子

奥役 ... 河原侃二