「ひろみ 打ちなさい!!」山本鈴美香・著「エースをねらえ!」12巻

vol. 12 「たえよ!この悲しみに…の巻」

アメリカで行なわれている招待試合。

岡ひろみは決勝で敗れたものの、多くの祝福と賞賛を受けます。

一刻も早く帰国して、宗方仁コーチに報告したい……。

彼がすでに故人であることを知らないひろみは

胸を躍らせて帰途につきます。

この悲しい知らせを本人に知らせる役目は、両親がことづかりました。

宗方コーチが死の間際までつけていた日記を

さりげなく渡すひろみパパであります。

岡 エースをねらえ!

と最後に書かれた文章の先は、めくってもめくっても白紙が続くのみ。

……生ける屍と化したひろみ。

誰も声をかけることさえできません。

遠くオーストラリアの地で

ひろみを案じるレイノルズ・コーチは、息子のエディを日本に使わします。

この厚意に、藤堂貴之は深く感動しました。

「そうか レイノルズ氏は」

われわれが いまうかつに うごけないことを さっして 息子をよこしてくださったのかありがたい! さすが 大物はちがう いきとどくとは こういうことをいうのか!

さすが藤堂、まだ20歳前だというのに、ここまでレイノルズ氏の気持ちを汲むことができるとは

、この男もただ者ではありません。

そして桂太悟コーチもいよいよ始動。

岡家へ訪問した彼は、ひろみを寺へ預からせてほしいと申し出ます。

「お嬢さんは 仁を失って」

いままさに 慟哭の時期にあります が わたしは思います 大した苦しみもないかわりに 大した喜びもなく 大した努力もしないかわりに 大した成果もえられず ぬるま湯につかったように 生きて死んでゆく人間が多い中で 慟哭をあじわえる人間は 幸福なのだと!

「だから その慟哭と」

真正面から対決しなければ 真の人生は 生きられないのだと!

桂にひろみを任せる決心をする両親です。

しかし、桂の指導は

常識を遙かに超えるものでした。

いきなりバケツで水を何杯もぶっかける!

いきなり滝に放り込む!

やめてください!! なにをなさるんです!!

白目をむいて怒るお蝶夫人に対し

一歩も引かず、逆に怒鳴り返す

桂住職なのでありました。

操り人形と化したひろみは

桂太悟に命ぜられるままに、寺での修行生活にいそしみます。

ある日、桂はひろみを連れて出かけます。

着いた先は身障児たちの施設。

ここでひろみは、さまざまな障害にもめげず

克服しようとがんばる子供を

目の当たりにするのです。

……ここは一見、お涙ちょうだいのパターンに見えます。

しかし、ひろみが並の人間と違うところは、「ハンディキャップのある子供たちでさえ

こんなに頑張っているのだから、健常者 (いやな言葉ですが、便宜上……)の私が がんばらないでどうする」 という、上から目線でものを考えるのではなく、「身障児=テニスをしているひろみ」

として見ているところです。

先生のところに

必死に這いずっていく子供もひろみなら、キャッチボールを

全身全霊で嫌がる子供もひろみなのです。

このあたりの描写は非常にリアリティがあります。

おそらく山本鈴美香先生が

入念な取材をされたのでしょう。

ここで繰り広げられる子供たちと

先生たちの魂の格闘には目をみはらされます。

「絶対にできない!」

と言い張る子供、

「絶対にできる!」

と信じこませ、自らも信じ込もうとする先生。

信念と信念の壮絶なる相克。

考えてみれば、先生がやらせようとしている

“それ”ができても子供たちの勝ちだし、できなくてもやっぱり子供たちの信念の勝ちです。

それでも先生たちは絶対に負けるわけにいかない。

そして、もし今日できたとしても、また明日になれば、子供たちの

「絶対できない」と

闘わねばならないのです。

この、報われることの少ない闘いを、宗方仁もしてきたのではなかったか。

何もできなかった岡ひろみを信じて、信じ抜き、ついにはそれをまっとうした。

それを直感的に感じとったからこそ、ひろみは子供たちと自分を重ね合わせて

見たのではないでしょうか。

そして、ついにひろみはラケットを持つに至ります。

桂太悟の存在がなかったら、この日は来なかったかも知れません。

しかし「エースをねらえ!」が

人々の話題に上ることはあっても、桂太悟の名を口にする人は少ないと思われます。

テレビや映画の影響もありましょうが、少し寂しいことです。

ところでこの巻あたりから、背景の描き込みがとても細かくなってきました。

寺の全景や、藤堂のセーターの編み目など、ここまでやるの?! と驚いてしまいました。

アシスタントさん増員されたのかな。

ご苦労様でした。

12巻で、ひろみがコートに戻ってきたということは、13~18巻(終)まで、ずっと上昇気流に乗った

彼女が見られるのでしょうか。

今後の展開がじつに楽しみです。

「エースをねらえ!」LINKS

「エースをねらえ!」01巻「試合なんてものはやってみなけりゃわからないんだぞ」 「エースをねらえ!」02巻「つらくなんかない!! つらくなんかない!!」 「エースをねらえ!」03巻「まだやれる まだじゅうぶんやれる」 「エースをねらえ!」04巻「うまいのと強いのとちがうでしょ」 「エースをねらえ!」05巻「きなさい 死にものぐるいで」 「エースをねらえ!」06巻「いずれ なにもかも思いでになる」 「エースをねらえ!」07巻「やりぬいてみせる! 命をかけても!!」 「エースをねらえ!」08巻「彼女におとる青春はすごすまい!」 「エースをねらえ!」09巻「もう何からも逃げない!」 「エースをねらえ!」10巻「この一球!」 「エースをねらえ!」11巻「絶対負けられない!!」 「エースをねらえ!」12巻「ひろみ 打ちなさい!!」 「エースをねらえ!」13巻「もう あともどりはできない」 「エースをねらえ!」14巻「やればできるんだ!」 「エースをねらえ!」15巻「わたし…がんばります!」 「エースをねらえ!」16巻「夢は死なないのだね 宗方君…!」 「エースをねらえ!」17巻「日本中が君の勝利を祈ってる がんばれ!!」 「エースをねらえ!」18巻(終)「……がんばってきます!」 マンガ「エースをねらえ!」………恐ろしい子!

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