『丹下左膳餘話 百萬兩の壺』(1935) 明るいキャラに変身させた山中貞雄。

11月8日は、山中貞雄監督の誕生日。

2020年の今年が生誕111年目にあたります。

代表作『丹下左膳余話 百万両の壷』は

1935年公開。

すでに85年の月日が流れました。

タイトルから想像するに、百万両の壺をめぐっての

ギラギラした争奪戦かと思いきや、そういう映画ではまったくなかったです。

百万両といったら、今なら

1000億円くらいでしょうか。

それほどの大金が目の前にあるというのに、源三郎(沢村国太郎)は、どこ吹く風、今日も昼間から浮気にいそしむのでございました……

という感じでこの映画は終わります。

うーん、すごい余裕です。

なんともいえない「ひねもすのたり」感が

実に魅力的ですなあ。

これでは原作者の林不忘が怒るのも無理はない。

丹下左膳(大河内傳次郎)は、片目片腕を失った恨みなどすっかり忘れて、髪結いの亭主よろしく昼酒を楽しんでいるんですから。

しかし原作者には申し訳ありませんが、キャラクターとしては山中貞雄が改変した

丹下左膳のほうが魅力的に思えます。

百万両の壺なら欲しいと思うのが当たり前。

斬られたのなら復讐心を抱き続けるのが当たり前。

可哀想な子がいたら「可哀相」と言うのが当たり前。

このあたりの世間の常識を

ことごとくひっくり返してくれるところが

観ていて実に爽快なのです。

「子どもかっ!」って突っ込みたくなるくらいに、左膳は逆らってばかりいます。

そのくせ、後でフォローを欠かしません。

憎めないキャラクターです。

ウィキペディアによると、カットされていたチャンバラシーンのフィルムが

発見されたそうです。

いつか完全版が発売されるかも知れませんね。

期待して待ちましょう。

あらすじ (ネタバレあります)

とある道場に婿入りした柳生源三郎。

実兄からの引き出物の壺が

百万両の値打ちがあることを知るも後の祭り。

妻の萩乃(花井蘭子)が

くず屋に売り払ったばかりだった。

源三郎の必死のくず屋探しが始まる……

と思いきや、射的屋の娘に一目惚れ、店に入り浸るていたらく。

その店では前日ひと悶着あり、客がヤクザに殺されていた。

店の女主人・お藤(喜代三)と

情夫兼用心棒の丹下左膳が 殺された客の家を探し当てると、そこにはちょび安(宗春太郎)という男の子が

帰らぬちゃんを待っていたのだった。

お藤と左膳はとりあえず、ちょび安を

射的屋に連れて行くことに。

ちょび安は大きな壺を抱えていて、中で金魚が泳いでいる。

壺は隣のくず屋からのもらい物。

これこそが百万両の壺であることはいうを待たない。

この後、ちょび安は実子同然に育てられる。

ある日、ちょび安が飼っていた金魚が

死んでしまったため、左膳は金魚釣りに連れて行く。

射的屋の常連となった源三郎と、店の娘・お久(深水藤子)も加わって、メンバーは合計4人。

このとき偶然にも、源三郎の妻の萩乃が、源三郎とお久がいちゃついているところを

見つけてしまったからさあ大変。

ここに到って源三郎も、ちょび安が抱えていた壺が

百万両の壺であることにようやく気づく。

夫はまじめに壺探しに精を出している……

とばかり思いこんでいた妻・萩乃は怒り心頭、源三郎に外出禁止を命じる。

ここで大きな事件が起こる。

メンコで遊んでいたちょび安が

六十両を盗まれてしまったのだ。

お金の価値を知らない両替屋の子どもが

お金をメンコ代わりにして

遊んだことから生じた悲劇だった。

両替屋への返済のため、左膳は博打で一攫千金を狙うが

そうは問屋が卸さない。

困ったあげく、考えだした手は道場破り。

圧倒的な強さを見せつける左膳。

次々に門弟達をなぎ倒していく。

最後にしぶしぶ出てきた道場主は、なんと源三郎だった!

魚心あれば水心。

試合中の商談は成立し、左膳は六十両と引き替えに負けてやる。

かくして源三郎は威厳を取り戻した。

妻・萩乃の瞳もハート形に戻る。

夜、左膳とちょび安が歩いていると、ちょび安の父親を殺したヤクザとばったり。

左膳はちょび安に代わって、父親の敵を討つ。

その後、殺されたヤクザの仲間と大立ち回り。

この部分がGHQの手によりカットされた。

残念……。

平穏な日々が戻ってきた。

晴れて外出禁止が解けた源三郎は

今日も射的屋で下手な矢を射てご満悦。

百万両の壺は左膳に預けてある。

「壺が見つかってしまうと浮気ができなくなるからな」

とのたまう源三郎であった。

『丹下左膳余話 百萬両の壺』

監督

山中貞雄

原作

林不忘

脚色

三村伸太郎

キャスト

丹下左膳 - 大河内傳次郎 お藤 - 喜代三 ちょび安 - 宗春太郎 與吉 - 山本礼三郎 茂十 - 高勢実乗 当八 - 鳥羽陽之助 萩乃 - 花井蘭子 お久 - 深水藤子 柳生対馬守 - 阪東勝太郎 峰丹波 - 磯川勝彦 高大之進 - 鬼頭善一郎 七兵衛 - 清川荘司 おしゃかの文吉 - 高松文麿 矢場の女 - 伊村利江子、達美心子 柳生源三郎 - 沢村国太郎