『開戦の前夜』(1943・日本) 笠智衆の鬼気迫る演技。

本日、11月7日は映画監督・吉村公三郎の命日です。

(よしむら こうざぶろう、1911年9月9日 - 2000年11月7日)

そして奇しくも上原謙の誕生日でもあります。

(うえはら けん、1909年11月7日 - 1991年11月23日)

となればご紹介すべき一本は

『開戦の前夜』ということになりましょう。

タイトルからも分かるとおり、戦意高揚映画なのですけれど、これがめっぽう面白いです。

主演の上原謙が、やさ男のイメージを

くつがえす好演を魅せてくれました。

そして何より特筆すべきは、友人役の笠智衆!

私の中では、本作が笠智衆のベスト・アクトです。

戦地(=死地)に赴く前に、上原宅を訪れ、酒を酌み交わす笠。

中国詩を地で行くような展開です。

1943年といえば、言うまでも無く

太平洋戦争のまっただ中。

笠の友人の中にも、徴兵された人や、あるいはすでに亡くなられた人がいたでしょう。

そして本人も、また映画の製作スタッフも、いつ赤紙が届くかも分からない状況でした。

当時の男たちの思いを

一身に背負ったかのような笠の演技!

死がすぐそばにあったこの時代でなければ

決して産み出すことのできない迫力に充ち満ちています。

その笠の思いに感じ入った

(というよりも迫力に押された?)上原は、家宝の日本刀を一振り進呈します。

床の間に飾られ朽ちていくよりも、笠と共に散るほうが、日本刀も本望でしょう。

たまたま生まれた時代が悪かったために、映画の中の彼は死んでいくことになるわけですが、もし平和な時代に生まれていても、凄い仕事をしでかしたろうと思わせるものがありました。

笠智衆さんご本人がまさにそうであったように。

このような男でありたいものです。

内容はいわばスパイもので、派手さはないものの

「007」シリーズなみに分かりやすいです。

「国策映画」イコール「変な映画」

といってもいいくらいに、珍品が多いジャンルです。

だからこそいいんだ、というマニアの方も

いらっしゃいますが、ほとんどの方は

避けて通りたいところではないでしょうか。

なにかこう、日本の暗部というか

恥部を見せつけられるような いたたまれない気分にさせられるものが

少なくありません。

「資料」「記録」としてならともかく、「映画」としての価値を見いだすのは

むずかしいと言わざるを得ない代物が多いです。

刀で例えるならば、ほとんどが竹光ばかりなのですが、その中に一本ギラリと光る真剣が埋もれていました。

“百聞は一見にしかず”とはまさにこのことですね。

『開戦の前夜』 (allcinemaより一部転載)

監督: 吉村公三郎

脚本: 津路嘉郎、武井韶平 撮影: 生方敏夫

音楽: 深井史郎

出演:

田中絹代 上原謙 木暮実千代 原保美 竹内良一 笠智衆