映画『家族会議』(1936) フィルム消失部分を脚本から補完しました。

明日、11月6日は

吉村公三郎監督の命日。

(1911年9月9日 - 2000年11月7日)

氏が「監督部」名義で参加している

『家族会議』(監督:島津保次郎)を

鑑賞しました。

株の仕手戦でドロドロ、ボロボロ、人命まで失われるという、いったいこれのどこが

「家族会議」なの?という映画。

それでも見直してみると、やはり島津保次郎監督ならではの

ホッコリ、ウルウル、しみじみテイストが

ところどころにあふれていました。

途中で何度か「トウサン」という言葉が出てきます。

なぜか若い女性に対してそう呼んでいます。

そこで調べてみると、関西ではむかし、商家の長女を

「とうさん」と呼んでいたようです。

なるほど納得。

それからウィキペディアの役名がどうやら間違っています。

OIKAWA-Michiko_wikipedia

家族会議 (映画) - Wikipedia (2016年9月22日現在)

及川道子の役名は「素子(モトコ)」ではなく

「泰子(ヤスコ)」です。

また、ところどころフィルムが失われているようで、キャスト名に名前が出ていても、本編に顔を出していない人がかなりいます。

飯田蝶子、斎藤達雄、坂本武

(これも漢字が『阪本』と間違っているなあ…)

の演技が失われてしまったのだとしたら、本当に惜しいことです。

セリフも聞き取れないところがあったりと、フィルムの痛みはかなり激しいです。

それにもかかわらず、見終わったあとに

満足感しか残らないのは、さすが島津保次郎監督。

佐分利信は二十代とはとても思えぬ

存在感をかもしだしています。

この人の若き日の姿は、松山ケンイチにそっくりですね。

高杉早苗も華やかな輝きを放っています。

(この人、香川照之のお祖母さまにあたる方なんですね、今日初めて知りました)

。。。あらすじ (ネタバレしています!)

重住商事の若社長、高之(佐分利信)はモテモテ。

今日も春子(立花泰子)の紹介で、清子(桑野通子)と歌舞伎座で見合いデート。

春子というのは高之の会社の大番頭・尾上の娘で、高之の姉のような存在。

…ということが、シナリオ

(『日本映画代表シナリオ全集5』に収録)

を読んで初めて分かります。

本編ではカットされている箇所が多くあるので

補足しながら進めていきます。

清子はかなり乗り気ですが、高之は素っ気ない態度を隠そうともしません。

その頃、関西から東京へ向かう二人の女性。

忍(高杉早苗)と、泰子(及川道子)です。

…汽車が画面左から右へ走ります。

分かりやすい演出。

…及川道子はこれが遺作となりました。

本作の2年後、26歳という若さで逝去。

この時すでに病魔に冒されていたのか、痛々しいくらいに痩せています。合掌…。

じつは高之と泰子は惚れあっています。

しかし泰子の父親が、高之の父を自殺に追い込んだ過去などがあり、高之は結婚に踏み切れません。

泰子の親友、忍は

この恋を成就させようと奔走します。

…勝ち気で行動的なセレブお嬢様といった感じの忍。

「行きまほ」

「ちょいとそのタバコ取ってんか!」

などの関西弁が可愛らしいです。

というわけで、泰子と忍からなる関西コンビと、清子と春子からなる関東コンビとが、高之を獲り合うという図式で話は進んでいきます。

関西チームが上京してきたのは、高之の父の法事に出席するため。

高之の父の仇?である仁礼文七(志賀靖郎)も

ふてぶてしい顔をしながら出席。

仁礼の娘・泰子は

高之と父の板挟みでいたたまれません。

仁礼の秘書は京極錬太郎(高田浩吉)。

この男だけ毛並みが違います。

農家出身の叩き上げ。

若手ながら仁礼の信頼を得ている切れ者です。

ネチネチと嫌らしい笑いを浮かべ、嫌われ役を担っています。

仁礼はこの男と泰子を一緒にさせたいようです。

しかし、上に記したように

泰子は高之に気があります。

また錬太郎も

生涯の伴侶は自らの手で見つけたい

と秘かに思う、なかなか骨のある男です。

「泰子さんの件についてはフェアに行きまほ」

と、高之に申し入れる場面がシナリオにあります、が本編ではカット。(もしくはフィルム消失)

仁礼と錬太郎は製紙会社の合併を目論み、こっそり株を買い集めます。

真の目的は高之つぶしにあるようです。

「高之さんところが困りますよ」

いいんですかぁ?

などと言いながらホイホイと

自分の持ち株を売る梶原(河村黎吉)です。

娘の清子(歌舞伎座デートで高之にひとめ惚れした娘)

は、これを立ち聞きします。

仁礼たちの仕業により、株が暴落。

高之は窮地に立たされます。

そこで清子が、待ってましたとばかりに

仁礼が黒幕であることを教えて点数稼ぎ。

このおかげで対策のめどが立った高之は、何とか持ちこたえることができました。

高之の窮地を救った清子は、満を持してのプロポーズ。

高之、やんわりと断わります。

清子、あまりのショックに

握りしめていたコップをパリン!

…ここの演出が凄いです。

いまどき映画で殺人を見ても何とも思いませんが、桑野通子の手にガラスが刺さり、コップに鮮血が垂れ(とはいってもモノクロですが)、佐分利信が手当てする……

この間、見ているこちらのほうの痛いことといったら!

また、結婚を断わられた桑野通子が窓際に立った時、いきなり窓下の川に飛び込むんじゃないかというくらい

迫力がありました。

そのとき窓の桟がちょうど桑野通子の目を隠していて

表情が分からないんですね。

これも本当に怖かった…。

さあ、これからが大変。

あれほど高之に惚れていた清子が、これ以降は敵方に回ります。

「打倒高之」ということで

目的を同じくする錬太郎と結託し、高之潰しに執念を燃やしまくります。

貧乏パワーと失恋パワーがタッグを組みました。

これは強力そう。

高之、大丈夫か?

やっぱりダメでした。

あえなく潰される高之。

会社は倒産しちゃった。

高之を励まし続けているおてんば令嬢の忍は、高之の家や権利など一切合切の買い取りを申し出ます。

そしてこれからは自分が社長になり、高之を番頭として雇うといいます。

これは忍の父・池島(藤野秀夫)からの、高之の亡父との交誼の賜物でもありました。

高之はありがたく受け入れます。

高之らを潰して大もうけした仁礼。

「もうこのへんで錬太郎と結婚しなさい」

と、娘の泰子に強権発動。

これはたまらないと泰子、東京へ逃げます。

泰子を乗せた汽車が、画面左から右へと向かいます。

ちょうど、それとは逆に走る下り列車が

富士山の裾野あたりですれ違いました。

これに乗っているのが春子です。

春子というのは、高之と清子の歌舞伎座デートをセッティングした娘です。

…これは本編にはないのですが、春子の父・尾上(水島亮太郎)は、高之の会社が倒産した後、自殺を試みたのです。

春子が関西へ向かっているのは、父の仇(?)である仁礼文七を刺殺するためなのです。

(※追記 某映画サイトのあらすじ紹介では、春子の父親は『自殺』となっていますが、シナリオを確認した限りでは『自殺未遂』のようです。

未遂で済んだのに、娘が敵方の大将を刺し殺しに行くものか? という疑問がないでもないですが…… とにかくシナリオ上では『自殺』と

断定していないことを付記しておきます)

この事件は物語上、かなり重要と思われます。

しかし本編ではそっくり抜け落ちているので、勝手ながらシナリオから引用させていただきます。

224 文七の部屋 文七、彼女を入り口へ迎える。 文七「や、これはお珍しい……どうぞ……」 春子、しとやかに一礼し、共に中へ消える。やや間。とたんに奥より、物音と「うーむ」と云ううなり声(間) 225 廊下 お雪とむら、茶菓を持って奥へ。 226 廊下の一箇所 女中たち来る。と、向うより春子が出て来る。 むら「(会釈し)もうお帰りでございますか?」 春子「ええ」 と茶菓を置き、むら、春子を送って玄関の方へ。お雪は文七の部屋の方へ行く。 227 文七の部屋 お雪、入って来て、叫び声をあげる。 228 文七、短刀で殺されている 229 お雪、バタバタと元の方へ叫びながら走る 230 廊下 おむら、下男の弥兵がその声に走って来る。お雪、おむらにしがみつき、お雪「死んでなさる!」 むら「何?」 お雪「早よう行って」 むら「何んでんね」 おむらと弥兵、走り行く。飯炊き、他の女中たちも集まる。 231 文七の部屋 両人、入って立つなり、弥兵、ヘタヘタと座る。 232 文七の死体 落ちている短刀(尾上の品) 233 夜の町 春子が自失した面持でただ歩く、ぐんぐん歩く。

仁礼亡き後、事業はそっくり

錬太郎が引き継ぐことになりました。

錬太郎は生涯の伴侶に泰子ではなく、清子を選びます。

打倒高之という目的の下、二人三脚を組んだコンビは

そのいきおいのまま結婚へとゴールイン。

いちど会社を潰した高之は、これからは雇われ番頭という形で再出発します。

もう泰子との間にわだかまりはないはずですが、何となくぎこちない二人です。

ラストは忍の別荘───。

忍は相変わらず、高之と泰子の世話を焼いています。

二人を別荘に残し、お邪魔虫は消えますとばかりに一人ドライブに出かける忍。

初めて見せる、孤独で哀しげな表情。

彼女は高之を愛していたのです。

溢れる涙を拭おうともせず、ステアリングをしっかりと握り、前方を見つめる忍。

車は六甲の山道を走り続けます───。

(終)

Family meeting (1936 / Japan)

監督: 島津保次郎

原作: 横光利一 脚色: 池田忠雄 監督部: 吉村公三郎

撮影部: 生方敏夫、木下惠介

キャスト

重住高之: 佐分利信 素子: 及川道子 忍: 高杉早苗 清子: 桑野通子 春子: 立花泰子 京極練太郎: 高田浩吉 仁礼文七: 志賀靖郎 池島信助: 藤野秀夫 尾上惣八: 水島亮太郎 梶原定之助: 河村黎吉 信江: 鈴木歌子

取引員: 大山健二