エルンスト・ルビッチとオスカー・ワイルド、夢のコラボ『ウィンダミア夫人の扇』(1925)

10月16日は作家、オスカー・ワイルドの生誕日。

2020年は生誕166年目にあたります。

Oscar Fingal O'Flahertie Wills Wilde

(1854年10月16日 - 1900年11月30日)

本日は、彼の原作をもとにした映画

『ウィンダミア夫人の扇』を観ていきたいと思います。

あらすじ (ネタバレあります!)

ウィンダミア夫人(メイ・マカボイ)は、幸せな結婚生活を送っていました。

人妻? よけい燃えるぜ

と言わんばかりに、彼女に言い寄り続けているのは

ダーリントン卿(ロナルド・コールマン)。

ウィンダミア卿(バート・ライテル)と

ダーリントン卿は親友同士のようです。

親友の奥さんを狙っているのですから、あまりタチが良いとは言えません。

かなりの色事師と思われます。

ある日、ウィンダミア卿に手紙が届きます。

差出人のアーリン夫人という人物に

心当たりはなかったのですが

とにかく会ってみることにします。

彼女はウィンダミア夫人の実母でした。

アーリン夫人はウィンダミア嬢を産んだ後すぐに

家庭を捨て、男と駆け落ちをしたということでした。

残されたアーリンの夫は、失意のうちに一生を終えました。

娘のウィンダミアには、「ママはお前を産んですぐに亡くなったんだよ」

と言い残して…。

(補足) このあたりは映画で触れられていません。

ですから、なぜアーリン夫人が周りから蔑まれているのか、観ていてよく分からなかったのですが、原作を読んでようやく腑に落ちました。

今さら母を名乗り出られても困る、と思ったウィンダミア卿は、アーリン夫人に大金を払い続けることになります。

今の感覚では理解しがたいですが、当時の上流階級では、アーリン夫人のような女性が母親であるというのは、子供にとっては生きていられないほどの

屈辱であったようです。

アーリン夫人はなぜ

そこまで疎まれるのでしょうか。

その理由は

「弱みにつけ込み、大金をせしめるような人間」

だからではなく、

「夫がある身で不倫をし、駆け落ちするような人間」

だからなのでした。

ただ、原作と映画のどちらからも、アーリン夫人が

脅迫しているというニュアンスは感じられません。

「夫たるもの、妻のお母さんを養って当然」という思いも、ウィンダミア卿にはあったのではないでしょうか。

かくしてきらびやかな衣装で着飾ることが

できるようになったアーリン夫人は、ロンドン社交界に“再”デビューを果たします。

競馬場で、男たちの注目を一身に集めるアーリン夫人。

いっぽう女たちの目は冷ややか。

なんとか欠点を見つけたくてしょうがない様子です。

双眼鏡をとっかえひっかえしてアラ探しに余念がありません。

夫人A

She is getting grey. 白髪発見

夫人B

She is quite grey. かなりの白髪ね

夫人C

She is perfectly grey! 白髪だらけよ!

このように、映画でのアーリン夫人は

「なんとなく胡散臭げな女」

という描かれ方をしています。

原作ではどうかというと、はっきりと

「身分違いの卑しい女」扱いをされています。

そして、そのような卑しい女に

ウィンダミア卿がご執心であると、ロンドン社交界中はそのウワサでもちきり。

もちろんこれは誤解です。

ウィンダミア卿は、お義母さんに

よくしてあげているだけなのです。

何も知らないウィンダミア夫人は

夫とアーリン夫人を疑いの目で見ています。

世間の目はもっと意地悪く、ウィンダミア夫人のことを

「夫に堂々と不倫をされている愚かな妻」

ときめつけ、笑いものにしています。

疑心暗鬼のかたまりとなったウィンダミア夫人。

こうなってはもう、何を見てもきいても

悪いほうに想像が働いてしまいます。

夫からアーリン夫人への大量の小切手を

(ダーリントン卿の策略により)

発見したウィンダミア夫人は、夫が不倫していると信じこまされてしまいました。

そんな中、ウィンダミア夫人の誕生パーティーが

間近に迫ってきました。

何か起こりそうな予感がします。

アーリン夫人も緊張しています。

このパーティーに招待されるか否かが

アーリン夫人にとって、真に社交界入りできるかどうかの

試金石となるからです。

アーリン夫人はウィンダミア卿に、招待状を寄こすよう要求します。

でも妻に浮気を疑われている卿は、断わりの手紙を出すよりしかたがありません。

その手紙をあろうことか、てっきり招待状と思い込んでしまったアーリン夫人。

喜び勇んで邸にやってくるも、門前払い……。

と、その時あらわれたのが

オーガスタス卿(エドワード・マーティンデル)。

彼はアーリン夫人にぞっこんで、熱烈プロポーズ中という御仁なのです。

卿がエスコートするのなら、まあ……

ということで門番突破に成功。

パーティー会場で、いるはずのないアーリン夫人の姿を

目にしたウィンダミア夫人はビックリ、そして激怒。

高ぶる気持ちがとんでもない行動を引き起こしてしまいます。

前から誘われていたダーリントン卿と

恋の逃避行を決めこんでしまったのです。

20年前に母が犯した過ちを、奇しくも踏襲しようとしている娘……。

そうはさせるものかと、ここからアーリン夫人の“母性”が発揮されます。

妻の寝室へ入ろうとするウィンダミア卿を

必死に阻止するアーリン夫人。

ウィンダミア夫人が出て行ってしまったことを

ウィンダミア卿に知られては、愛する娘が不幸になってしまいます。

そのつらさは自分がいちばんよく知っています……。

次にアーリン夫人はダーリントン邸へと向かいます。

案の定、ウィンダミア夫人がいました。

「母」の必死の説得も、ウィンダミア夫人にとっては

「にっくき不倫相手」のたわごとでしかありません。

それでも徐々にアーリン夫人の真心は

伝わっていっているようです。

そこへ男性陣がどやどやと入り込んできました。

これから二次会というところでしょう。

ウィンダミア卿がいます。

ダーリントン卿もいます。

自分の屋敷ですから当然ですね。

これで役者が揃いました。

とっさに隠れる二人の女性。

物陰から様子をうかがっている二人はハッとします。

ソファの上に扇を置いてきてしまったのです。

その扇が、ウィンダミア卿から妻への

誕生日プレゼントであることは、パーティーに参加した全員が知っています。

扇は男たちに見つけられました。

ダーリントン卿も隅におけねえなぁ

と盛り上がっているうちに、扇の贈り主が誰であったか

気づきはじめる男たち。

これはどういうことだ?!

とダーリントン卿に詰め寄るウィンダミア卿。

シラを切り続けるダーリントン卿。

でも内心ではほくそ笑んでいるはず。

ウィンダミア夫人、やっぱり来たな

と。

あわや大乱闘かと思ったそのとき、夫人が姿を現わします。

夫人といっても、現れたのは

ウィンダミア夫人ではなく、アーリン夫人。

その扇、私がウィンダミア夫人から 黙って借りてきちゃったの。ごめんなさい

男連中は、なんとなく納得。

アーリン夫人とダーリントン卿…… あるっちゃあるか

当のダーリントン卿の頭の中では「???」マークが

踊り狂っていたことでしょう。

男たちの中にはオーガスタス卿の姿もありました。

アーリン夫人を見る目の冷たいこと。

もはやプロポーズはあり得ません。

アーリン夫人は、娘の名誉と引きかえに

自身の社交界入りを断念したのでした。

翌日。

アーリン夫人からウィンダミア夫人へ最後の言葉。

昨日のことは決して誰にも言っちゃだめよ

娘が負うはずだった世間の厳しい目を一手に引き受けて、アーリン夫人はロンドン社交界から去っていきます。

玄関のところでオーガスタス卿とすれ違った、その時のアーリン夫人の捨てゼリフ───。

昨夜あなたは私に恥をかかせましたね 結婚はできません

意味が分からないという表情のオーガスタス卿。

ともかくアーリン夫人を追いかけていき、強引に一緒のタクシーに乗り込みます。

去っていくタクシーのカット……

ジ・エンド。

……ここがまた原作を読んでいないと

何のこっちゃと言いたいところです。

おそらく以下のような解釈で正しいと思います。

まず、アーリン夫人の言い分。

私がダーリントン邸へ行ったのは、オーガスタス卿、あなたに会うためじゃありませんか 私はあなたを追いかけてダーリントン邸に行ったのですよ それをなんですか、ダーリントン卿と何かあるのでは、と私を疑うなんて

(……で、次のセリフにつながります)

昨夜あなたは私に恥をかかせましたね 結婚はできません

だからそのあとおそらく二人の間のわだかまりは解けて、めでたく結婚しましたとさ。

という解釈でよいかと……

というか、そういうことにしときましょう。(笑)

ところで、「扇 (FAN)」という単語には、もうひとつ意味があるそうです。

それについて面白い考察をされているブログを発見!

なるほど~、勉強になります。

『ウィンダミア卿夫人の扇』 (Lady Windermere's Fan) - life_in_technicolor's book blog

最後に。

「ルビッチ・タッチ」という評伝本の中に、本作にまつわるエピソードが載っています。

誠に勝手ながらここに紹介させていただきました。

さらに、(チャールズ・)ハイアム(映画史家)はアスコット競馬場にかかわる逸話を回想している。 ルビッチはジャック・ワーナー(ワーナー・ブラザース社長)に、カナダに出かけて競馬場のシーンの撮影をしてくると告げた。 ワーナーは声を荒げた。

「この馬鹿もん! 競馬ならアメリカで撮れるだろうが!」

ルビッチは返答した。 「理由はだね、この馬鹿もん!、カナダはイギリスと同じで、この国とは逆回りに馬が走るんだ」。 ルビッチは撮影クルーを引き連れてカナダに出向き、むこうでこのシーンを撮影してきた。 国書刊行会 2015-04-20 メイ・マカボイ IVC,Ltd.(VC)(D) 2012-01-27

関連リンク : エルンスト・ルビッチ監督作品(いちおう年代順です)

★★☆☆☆

『牡蠣の王女』(1919・ドイツ)

★★★★★

『花嫁人形』(1919・ドイツ)

★★★☆☆

『デセプション』(1920・ドイツ)

★★★★☆

『結婚哲学』(1924・アメリカ)

★★☆☆☆

『ウィンダミア夫人の扇』(1925・アメリカ)

★★★★★

『思ひ出』(1927・アメリカ)

★★☆☆☆

『山の王者』(1929・アメリカ)

★★★☆☆

『ラブ・パレード』(1929・アメリカ)

★★★☆☆

『モンテカルロ』(1930・アメリカ)

★★★☆☆

『陽気な中尉さん』(1931・アメリカ)

★★★★☆

『私の殺した男』(1932・アメリカ)

★★★☆☆

『君とひととき』(1932・アメリカ)

★★☆☆☆

『極楽特急』(1932・アメリカ)

★★★☆☆

『生活の設計』(1933・アメリカ)

★★★☆☆

『メリー・ウィドウ』(1934・アメリカ)

★★★★☆

『天使』(1937・アメリカ)

★☆☆☆☆

『青髭八人目の妻』(1938・アメリカ)

★★★★★

『ニノチカ』(1939・アメリカ)

★★★★☆

『街角 桃色の店』(1940・アメリカ)

★★☆☆☆

『淑女超特急』(1941・アメリカ)

★★★★★

『生きるべきか死ぬべきか』(1942・アメリカ)

★★★★☆

『天国は待ってくれる』(1943・アメリカ)

★☆☆☆☆

『ロイヤル・スキャンダル』『クルニー・ブラウン』『あのアーミン毛皮の貴婦人』

<書籍> 「ルビッチ・タッチ」ハーマン・G・ワインバーグ(著),宮本高晴(訳)

Lady Windermere's Fan (映画.comより一部転載)

監督 - エルンスト・ルビッチ Ernst_Lubitsch

脚本 - ジュリエン・ジョセフソン Julien_Josephson 原作 - オスカー・ワイルド Oscar_Wilde

撮影 - チャールズ・バン・エンガー

cast

ロナルド・コールマン Ronald_Colman - Lord_Darlington アイリーン・リッチ Irene_Rich - Mrs._Erlynne メイ・マカボイ May_McAvoy - Lady_Windermere バート・ライテル Bert_Lytell - Lord_Windermere エドワード・マーティンデル Edward_Martindel - Lord_Augustus ヘレン・ダンバー - Duchess Carrie Daumery - Duchess

Billie Bennett - Duchess