復讐はショパンの調べ。「1億円と旅する男」感想「Q.E.D. iff -証明終了-」加藤元浩・著

少年マガジンR 2019年5号[8月20日発売]を購入しました。

紙書籍版でのみ読むことができる「Q.E.D.⇔iff -証明終了-」 (電子版には掲載されておりません。ご注意ください)。 今回のタイトルは「1億円と旅する男」です。

(※2019.10.21 追記 「Q.E.D. iff -証明終了-」第14巻に収録されました)

できる限り、ネタバレを避けてあらすじ紹介させていただきます。。。

1億円の入ったバッグを抱えた老人が雨の東京を徘徊していました。

老人はほとんどの記憶を失っていました。

なぜ自分が1億もの大金を持っているのかも分かっていないようです。

警察により身元が判明。

彼の名は浦島太郎といいました。(あだ名ではなく本名です)

年齢は60くらい。

現代では老人と呼ぶには まだまだ若い年ですが、浦島さんは白髪で、見た目も80歳くらいに見えるのでした。

浦島太郎さんの半生を

かいつまんで話すと以下のようになります。

約30年前、交通事故に遭い、太郎さんは賠償金として1億円受け取りました。(バッグの1億はこのお金)

寝たきりとなって眠り続ける太郎さん。

自宅マンションで、奥さんの尚子さんの看病をずっと受け続けます。

1年前、尚子さんはガンにより死亡。

しかし彼女は生前、ひとり残されることになる太郎さんのため、今後の介護についてのもろもろの支払いや手続きなど、遺漏なく済ませておいてくれました。

おかげで太郎さんは、尚子さん亡き後も、施設に移され、充分な介護を受けられたのでした。

施設に入って2ヵ月後、太郎さんは約30年ぶりに目を覚まします。

自分が何者であるかか、すでに分からなくなっていた彼は、施設を抜け出し徘徊。

そこを警察に保護された──という流れです。

ここで「Q.E.D.iff」のレギュラー、われらが水原可奈ちゃんに「太郎さんの過去を調べてほしい」との相談が持ちこまれます。

尚子さんが遺書などを残さなかったため、手がかりは二つしかありません。

尚子さんが夫の太郎さんにショパンの「別れの曲」のオルゴールをずっと聴かせつづけていたこと。

そのさい、よく次の言葉をささやいていたこと。

「乙口(おとぐち)を捜して」

可奈ちゃんは、クラスメイトでもある天才少年、澄馬想(とうま そう)くんの助けを借りて、「乙口」とは超エリート検事の名前だということを突きとめます。

乙口は29年前、浦島太郎さんを、ある殺人の容疑者として起訴、懲役15年の刑に服させたことがありました。

(ということは尚子さんの話、『約30年前、交通事故に遭った』『その後ずっと夫は眠り続けた』は真実ではないということになりますが‥‥?)

可奈ちゃんは、当時の浦島さんの弁護士宅まで訪ねていって話を聞いたり、現場をめぐり写真を撮ったり、警視庁捜査一課の頼れるお姉さん、七夕菊乃さん(髪切った!?)に過去の資料を見せてもらったりと大活躍。

そして浮かび上がってきた驚くべき事実──。

30年間、尚子さんがいかに太郎さんのことを考え続けてきたか。

オルゴールのネジを何百回、何千回巻き続けてきたか。

可奈ちゃんの口から聞かされた太郎さんは、初めて自分は「素性の知れない誰か」ではなく「浦島太郎」その人なのだと確信するのでした。

尚子さんの墓前で号泣する太郎さん。

ふと墓石を見ると、小さなオルゴールが。

太郎さんはオルゴールを持ち帰り、ひとりの部屋でねじを巻きます。

蓋を開けると、中から白い煙が出て一瞬のうちに何百年も時が経ってしまった……などということはなく、ただショパンの「別れの曲」のメロディが流れるだけなのですが、じつはこの瞬間から太郎さんにとっての生き地獄が始まるのです。

気が遠くなるほどの手間と憎しみを注いだ、無慈悲で残酷きわまりない復讐劇。

もし真相を知ってしまえば、いくら可奈ちゃんが強いハートの持ち主だとしても、深く傷ついてしまうかも知れない──。

それを案じた澄馬くんは読者にだけ真相を明かし、事実を知る関係者に関連資料の廃棄をお願いした後、しずかに自分の胸の奥に封印するのでした──。

。。。ミステリを本業とする小説家でも、一生のうちにひとつ思いつけるか否か、というほどの奇抜な発想とクオリティを、本エピソードは持っていると思います。

「Q.E.D. iff -証明終了-」

「C.M.B. 森羅博物館の事件目録」

「捕まえたもん勝ち!」

シリーズあわせて、月に2~3本の超ハイペースで 高レベルの作品を長年にわたり、コンスタントに発表し続けておられる加藤元浩先生、すごすぎです。

更なるご活躍を期待しちゃいましょう!!!

辻井伸行 別れの曲 Nobuyuki Tsujii plays the piano on Étude Op. 10, No. 3 (Chopin)

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