寅さんカタギを目指す『男はつらいよ 望郷篇』05作目(1970)

マドンナ = 長山藍子

ゲスト = 杉山とく子井川比佐志

シリーズ中、出色の出来です。

第3作、4作は別の人が監督でした。

5作目となる本作品で

久々に山田洋次監督の手にメガホンが戻ります。

2作も監督をさせてもらえなかった屈辱をバネに

渾身の力を込めて作ったのかと思っていたら、こちらのとんだ邪推でした。

実は山田洋次監督、他にやりたい企画(映画『家族』)があって、3,4作目は自ら降板を申し出たのだそう。

さくら役でおなじみ倍賞千恵子さんが著した

「お兄ちゃん」(1997)にそのことが載っていました。

以下、引用です。

『続・男はつらいよ』もたくさんお客さんが入ってくれて、松竹では『寅さん』をシリーズ化して、ゆくゆくは看板番組にしようという方針を固めたようでした。 とりあえず、すぐ第三作に取りかかってほしい。 でも、山田監督は、長い間温めていた企画があって、今はそれをやりたい、『寅さん』の脚本には参加するけれど、監督は別な人をたててほしいと、主張したそうです。

「ずるいよ、そんなの!」

第三作の出演依頼が事務所に来て、監督が交代するむね聞いたとき、シリーズになるのなら俳優もスタッフもずっとずっと同じメンバーで、男の人の言葉を借りるなら、一緒に“同じ釜の飯”を食べ続けたいと思っていた私は、ずいぶんがっかりしました。

「お兄ちゃん」倍賞千恵子・著

寅さんの決まり文句となった

https://www.23notebook.net/wp-content/uploads/2019/06/551426a460c9b38d2c4a508d710ae694.png" よう、青年!

が初めて登場したのも本作だそう。

山田洋次・著「寅さんと日本の民衆」(1998)からその部分を引用させていただきます。

例えば、これも予想しないときに渥美さんがひょいとアドリブでいったんですけれども、第五作ですからだいぶ前、松山政治(※原文ママ)君が機関車の助手の役になった。 松山政治君は当時若かったので、渥美さんが彼を呼びかけるのに「おい、青年!」っていったんですよね。 それがもうおかしくてね。(中略) しかし、この「青年」という呼び方は面白いですね。「青年」という言葉には、希望が託されているといえるんじゃないか。 高い志を抱いて真剣に生きる、未来を目指してがんばってるという、そういうイメージをもっている。 だれもがそういったってだめなんです。 渥美さんが、「おい、青年!」って呼ぶと、そんなイメージがふわっと、ちょっと戯画化されているけれども伝わってくる。 そして、現実の日本の青年と渥美さんの心に描いている素敵な「青年!」というイメージとのずれがちょっとおかしくなるというところが、「おい、労働者諸君!」というのと似ていますね。

「寅さんと日本の民衆」

あらすじ (ネタバレあります!)

われらが寅さん(渥美清)がめずらしく「とらや」に電話。

おばちゃん(三崎千恵子)がからかい心を出してしまいます。

うちの人(森川信)が危篤なんだよ

こういうことになると

がぜん気が回りだす寅さん。

てきぱきと御前様(笠智衆)や、葬儀社や、近所の人々などに遺漏なく声をかけ、葬儀屋さん顔負けの手腕を発揮します。

だまされたと分かった後はお決まりの大げんか。

そこへ寅さんの舎弟の登(秋野太作)がやってきました。

むかし世話になった政吉親分(木田三千雄)が危篤だと伝えに来たのです。

義理を欠いちゃあ渡世人の名がすたるぜ

と、親分の入院先の札幌へ向かう二人。

病院のベッドで横たわる政吉親分に昔の面影はありませんでした。

死ぬ前にひと目、息子の澄夫(松山省二)に会いたいと

涙とよだれにまみれながら哀願する親分。

澄夫というのは、政吉が若気の至りで

女中に産ませた子どもです。

今は国鉄(=現JR)で機関士をしています。

寅さんたちはさっそく澄夫の元へ。

ところがいくら説得しても、とりつく島がありません。

……ここでの澄夫のススまみれの顔が美しい!

(当時の列車は、石炭で動く蒸気機関車でした)

まっとうに労働する者のみが放ちうる

輝きに包まれています。

遊び半分に子どもを産ませて、後は知らん顔で、死んだときだって香典一つ寄こさないでおいて、今度は自分が死にそうだから、息子に会いたい? 会って詫びを言いたい? そんな身勝手な話がありますか。 ふざけるなと言いたいよ。 何がオヤジなもんか、そんな男が

仕事があるから、と去って行く澄夫。

政吉親分は、翌朝息を引き取りました。

澄夫に感化されたか、舎弟の登に対し、一方的に絶縁を宣告する寅さん。

そして地道に働くことを固く決意し、意気揚々と「とらや」に帰ります。

やっとお兄ちゃんがまっとうになってくれた

と、大喜びするさくら。

おいちゃん、おばちゃんは半信半疑ですが。

それでもどんな仕事が寅さんに向いているか、みんなで一生懸命考えます。

親身になっていろいろな仕事を提案するのですが

寅さんはなんだかんだと屁理屈をこねて

片っ端から却下していきます。

そこへ仕事を終えた博(前田吟)が、汗と油まみれになって姿を現わしました。

そのピカピカのまみれっぷりが

寅さんの美学にかなったもよう。

タコ社長(太宰久雄)の元で働くと勝手に決めて、明日の労働にそなえ、早々と二階に上がり、体を休めるのでした。

翌日、オーバーオールに身を包んだ寅さんが降りてきました。

マリオそっくりです……って、こちらの方が時期的に全然早いですが。

メーデーの歌なんか歌っちゃって、気分も最高潮。

しかしあっという間にクビ(笑)。

その後、寅さんは豆腐屋で働き出します。

豆腐屋のおかみ役は杉山とく子、娘の節子役は長山藍子です。

この二人と井川比佐志は、テレビ版『男はつらいよ』のレギュラーでした。

役柄はそれぞれ、

  • 杉山とく子 = おばちゃん
  • 長山藍子 = 櫻
  • 井川比佐志 (= ひろし。映画版は“博”の一文字)

実は『男はつらいよ』シリーズ、この5作目で終わる予定だったそうです。

そういう事情もあって、お三方の

はなむけのゲスト出演と相成ったのでしょう。

ところが本作が大ヒット!

めでたく続行が決まりました。

そんな裏事情を踏まえて本作を観てみると、寅さんの次のセリフが味わい深いものとして響いてきます。

(寅さん、去って行く井川比佐志の後ろ姿に向かって)

https://www.23notebook.net/wp-content/uploads/2019/06/551426a460c9b38d2c4a508d710ae694.png" 不器用なヤローだね、あいつは お前の亭主の博に似てやしねえか おにいちゃん、聞こえるじゃない 同じ種類だな

木村(井川比佐志)が節子の想い人だとは夢にも思わない寅さん。

節子に

できたらずっとうちにいてほしい

と言われ、有頂天。

これは罪作りなひと言でした。

こんな言い方をされては、寅さんじゃなくても勘違いしてしまいます。

節子のほうもそれを望んでいた節があります。

もちろんこれはプロポーズなどではありません。

「店の手伝いをする」という言質を

寅さんから取っておいて、自分は木村と結婚して家を出ようという企みです。

寅さんは二つ返事でオーケーしてしまいましたが、節子の真意を知った翌朝、何も言わず

店から姿を消しました。

これで終わったら節子はひどい女のままでした。

が、山田監督はきっちりフォローを忘れません。

ひと月後、節子は寅さんからの手紙を携え、さくらのアパートを訪問するのです。

節子は、寅さんだけでなく、さくらをも

間接的に傷つけてしまったことを自覚しています。

じつに敷居の高い訪問ですが、それでもやってきたのは、節子の誠実さのあらわれでしょう。

しかしそれだけでもないようにも思えます。

寅さんを陥れてまで、あの家を出たかった、木村さんと一緒になりたかった、その気持ちを、あなたも同じ女なら、否定できないわよね?

分かってくれるわよね?

そんな女心を、さくらなら理解を示してくれる……

という気持ちもあったのではないでしょうか。

このシーンにおいては、セリフは空疎な言葉の羅列に過ぎず、本心は表情と態度で表わされます。

うわっつらの言葉で煙幕を張りながら

心の内側で痛みを共有し合うのです。

見当違いの解釈かも知れませんが、私にはそう見える場面でした。

また節子に対し、恨み節をもらすどころか

すべてを腹に収め、彼女の重荷を解いてあげるような

いたわりに満ちたハガキを出した寅さんも男の中の男です。

どこかの田舎町の海岸をぶらつく寅さん。

遠くで汽笛が鳴っています。

そこでなんと登とバッタリ。

仁義を切る格好をしてみせる寅さん。

それを見たとたん、ぱっと笑顔になる登。

いかにも嬉しそうにじゃれ合う二人。

その向こうを、力強く黒煙を吐きながら

蒸気機関車が遠ざかっていきます。。。(完)

……の予定でしたが、大好評につき続行決定!!

https://www.tora-san.jp/movie/5/

男はつらいよ 望郷篇 Tora-san’s Runaway

監督:山田洋次 脚本:山田洋次宮崎晃

音楽:山本直純

車寅次郎:渥美清 さくら:倍賞千恵子 車竜造:森川信 車つね:三崎千恵子 諏訪博:前田吟 たこ社長:太宰久雄 登:秋野太作 源公:佐藤蛾次郎 御前様:笠智衆 三浦富子:杉山とく子 木村剛:井川比佐志 石田澄雄:松山省二 (松山政路) 三浦節子:長山藍子 満男:中村はやと 竜岡親分:木田三千雄 子分:谷村昌彦

旅館の女中:谷よしの

<男はつらいよシリーズ - 極私的星取り表>

No.01 ★★★★☆

男はつらいよ (光本幸子、志村喬、広川太一郎)

No.02 ★★★☆☆

続・男はつらいよ (佐藤オリエ、東野英治郎、ミヤコ蝶々、山崎努)

No.03 ★★☆☆☆

男はつらいよ フーテンの寅 (新珠三千代、香山美子、河原崎建三、花沢徳衛)

No.04 ★★☆☆☆

新・男はつらいよ (栗原小巻、財津一郎、三島雅夫、横内正)

No.05 ★★★★☆

男はつらいよ 望郷篇 (長山藍子、杉山とく子、井川比佐志、松山省二)

No.06 ★★★☆☆

男はつらいよ 純情篇 (若尾文子、森繁久彌、宮本信子、垂水悟郎)

No.07 ★★☆☆☆

男はつらいよ 奮闘篇 (榊原るみ、ミヤコ蝶々、田中邦衛、柳家小さん)

No.08 ★★★★☆

男はつらいよ 寅次郎恋歌 (池内淳子、吉田義夫、岡本茉利、志村喬)

No.09 ★★★★★

男はつらいよ 柴又慕情 (吉永小百合、宮口精二、佐山俊二)

No.10 ★★☆☆☆

男はつらいよ 寅次郎夢枕 (八千草薫、田中絹代、米倉斉加年)

No.11 ★★★★☆

男はつらいよ 寅次郎忘れな草 (浅丘ルリ子、織本順吉、毒蝮三太夫)

No.12 ★★★☆☆

男はつらいよ 私の寅さん (岸惠子、前田武彦、津川雅彦)

No.13 ★★★★★

男はつらいよ 寅次郎恋やつれ (吉永小百合、高田敏江、宮口精二)

No.14 ★★☆☆☆

男はつらいよ 寅次郎子守唄 (十朱幸代、月亭八方、春川ますみ、上條恒彦)

No.15 ★★★★☆

男はつらいよ 寅次郎相合い傘 (浅丘ルリ子、船越英二)

No.16 ★★☆☆☆

男はつらいよ 葛飾立志篇 (樫山文枝、桜田淳子、米倉斉加年、大滝秀治、小林桂樹)

No.17 ★★★★★

男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け (太地喜和子、宇野重吉、岡田嘉子)

No.18 ★★★☆☆

男はつらいよ 寅次郎純情詩集 (京マチ子、檀ふみ、浦辺粂子)

No.19 ★★★☆☆

男はつらいよ 寅次郎と殿様 (真野響子、嵐寛寿郎、三木のり平、平田昭彦)

No.20 ★★★☆☆

男はつらいよ 寅次郎頑張れ! (藤村志保、中村雅俊、大竹しのぶ)

No.21 ★☆☆☆☆

男はつらいよ 寅次郎わが道をゆく (木の実ナナ、武田鉄矢、竜雷太)

No.22 ★★★★☆

男はつらいよ 噂の寅次郎 (大原麗子、室田日出男、泉ピン子、志村喬)

No.23 ★★★★☆

男はつらいよ 翔んでる寅次郎 (桃井かおり、湯原昌幸、布施明、木暮実千代)

No.24 ★★☆☆☆

男はつらいよ 寅次郎春の夢 (香川京子、ハーブ・エデルマン、林寛子)

No.25 ※※※※※ 男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花 (浅丘ルリ子、江藤潤)

No.26 ★★★☆☆

男はつらいよ 寅次郎かもめ歌 (伊藤蘭、松村達雄、村田雄浩)

No.27 ★★★☆☆

男はつらいよ 浪花の恋の寅次郎 (松坂慶子、芦屋雁之助)

No.28 ★★★☆☆

男はつらいよ 寅次郎紙風船 (音無美紀子、地井武男、岸本加世子、小沢昭一)

No.29 ★★☆☆☆

男はつらいよ 寅次郎あじさいの恋 (いしだあゆみ、片岡仁左衛門)

No.30 ★★★☆☆

男はつらいよ 花も嵐も寅次郎 (田中裕子、沢田研二、朝丘雪路)

No.31 ★★★☆☆

男はつらいよ 旅と女と寅次郎 (都はるみ、北林谷栄、中北千枝子、藤岡琢也)

No.32 ★★★★★

男はつらいよ 口笛を吹く寅次郎 (竹下景子、松村達雄、中井貴一、杉田かおる)

No.33 ★★★☆☆

男はつらいよ 夜霧にむせぶ寅次郎 (中原理恵、渡瀬恒彦、佐藤B作、秋野太作)

No.34 ★★☆☆☆

男はつらいよ 寅次郎真実一路 (大原麗子、米倉斉加年、風見章子、津島恵子、辰巳柳太郎)

No.35 ★★☆☆☆

男はつらいよ 寅次郎恋愛塾 (樋口可南子、平田満、初井言榮)

No.36 ★★★★☆

男はつらいよ 柴又より愛をこめて (栗原小巻、川谷拓三)

No.37 ★☆☆☆☆

男はつらいよ 幸福の青い鳥 (志穂美悦子、長渕剛、桜井センリ)

No.38 ★★★★☆

男はつらいよ 知床慕情 (竹下景子、三船敏郎、淡路恵子)

No.39 ★★☆☆☆

男はつらいよ 寅次郎物語 (秋吉久美子、五月みどり、河内桃子)

No.40 ★★★★☆

男はつらいよ 寅次郎サラダ記念日 (三田佳子、三田寛子、尾美としのり、鈴木光枝)

No.41 ★★☆☆☆

男はつらいよ 寅次郎心の旅路 (竹下景子、淡路恵子、柄本明)

No.42 ★☆☆☆☆

男はつらいよ ぼくの伯父さん (後藤久美子、檀ふみ、夏木マリ、尾藤イサオ)

No.43 ★★★★☆

男はつらいよ 寅次郎の休日 (後藤久美子、夏木マリ、寺尾聰、宮崎美子)

No.44 ★★★☆☆

男はつらいよ 寅次郎の告白 (後藤久美子、吉田日出子、夏木マリ)

No.45 ★★★★★

男はつらいよ 寅次郎の青春 (後藤久美子、風吹ジュン、永瀬正敏、夏木マリ)

No.46 ★★★☆☆

男はつらいよ 寅次郎の縁談 (城山美佳子、松坂慶子、島田正吾、光本幸子)

No.47 ★★★★☆

男はつらいよ 拝啓車寅次郎様 (牧瀬里穂、かたせ梨乃、小林幸子)

No.48 ★★☆☆☆

男はつらいよ 寅次郎紅の花 (後藤久美子、浅丘ルリ子、夏木マリ、田中邦衛、村山富市、宮川大助・花子)

特別編 [1997.11.22] ★★★★☆ 男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花 特別篇 (浅丘ルリ子、江藤潤) TV版 ★★★☆☆ テレビドラマ版 男はつらいよ 番外編 山田洋次監督が語る「森川信」4つのエピソード。『男はつらいよ』 | 23notebook 『男はつらいよ』が嫌い – というエントリの気持ち分かります。 | 23notebook